東京高等裁判所 昭和45年(行コ)68号 判決 1971年4月27日
控訴人
医療法人積愛会
代理人弁護士
大類武雄
外二名
被控訴人
保土ケ谷税務署長
野中武
指定代理人
小川英長
外三名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
当裁判所も控訴人の本訴請求は失当であると判断するものであるが、その理由として原判決九枚目裏九行から十行目の「通知してきたが」の次に「昭和四一年度分の更正には第一次更正処分の理由が若干補充訂正されていたこと」を挿入するほか原判決九枚目表九行目から十枚目表五行目までの理由説示を引用し、左記のとおり附加し、更にその次に五として原判決一四枚目裏四行目以下の理由説示を引用する。
二<証拠>によると本件各第二次更正処分にはいづれも「更正理由」の欄に「当初更正所得金額を取消します。」と記載し「申告または更正前の金額」欄に各第一次更正処分によつて更正した金額を、「更正または決定の金額」欄に控訴人の各確定申告の金額をそれぞれ記載した「法人税額等の更正通知書」によつて控訴人に通知されていることが認められ、この通知書の記載内容だけからすれば本件各第二次更正処分は、各第一次更正処分において確認しかつ更正の理由とした所得を始めからなかつたものと判断し、確定申告額どおりの所得金額または欠損金額に再更正したものであるとみることもできるであろうが、同日付で第三次更正処分として昭和四一事業年度の更正としては理由の補充訂正がなされ、昭和四二事業年度の更正としては税率が是正されて控訴人に通知されていることを考えると右各第二次更正処分は各第三次更正処分をする前提の手続として形式的に各第一次更正処分を取消すためになされたにすぎず、本来取消処分であるのに更正処分の形式をかり更正通知書の用紙を利用してしたため通知書上は前記のようにあたかも確定申告額のとおりに再更正したかのような記載となつているが、これは第一次更正処分を取消す結果として確定申告書が提出されて未だ更正処分のなされていない状態に復することを示したに止まり、各第一次更正処分において確認しかつ更正の理由とした各所得について、それらが始めからなかつたものと判断したものではないと認めるのが相当である。のみならず第一次更正処分が第二次更正処分をもつて取消され、その取消の同一日付で第三次更正処分として昭和四一事業年度のそれは理由を補充訂正し昭和四二事業年度のそれは税率を是正した経緯は、これを率直かつ実質的に観察すれば、昭和四一事業年度の第三次更正処分は第一次更正処分の理由を直接補充訂正したものであり昭和四二事業年度の第三次更正処分は第一次更正処分の税率を直接是正したものと解するのが相当である。
三、以上のとおりであるとするならば、昭和四一事業年度の第一次更正処分の理由を第三次更正処分で直接訂正補充することおよび昭和四二事業年度の第一次更正処分の税率を直接第三次更正処分で是正することが可能であるかぎり、第二次更正処分を第一次更正処分の取消ないし控訴人の確定申告額どおりの所得金額または欠損金額に再度更正した処分であるとし、これを前提として行政処分の不可変性および更正権の制限を主張し本件各第三次更正処分の違法をいう控訴人の主張は、すべてその理由がないものとしなければならない。
四そこでまづ第三次更正処分によつて昭和四二事業年度の第一次更正処分の税率を是正することが可能であるかどうかについて考えるのに、前記甲第四号証と成立に争のない甲第二号証を対比すると、第三次更正処分は第一次更正処分の税率を是正することによつて法人税額は七一万六、八〇〇円が五八万八、八〇〇円に過少申告加算税額は三万五、八〇〇円が二万九、四〇〇円にそれぞれ減額していることが認められ、これは国税通則法第二六条の規定によつて再更正をなしうる場合に該るからかかる第三次更正を適法になし得ることはいうまでもない。
次に昭和四一事業年度の第三次更正処分適法性について考えるのに、この第三次更正処分は前段認定の通り昭和四一事業年度の第一次更正処分の理由を若干補充訂正したに止るものであるから国税通則法の前記法条が適用されるべき場合には該らないけれども、右第三次更正処分は控訴人に新たな責務を課し或は既に控訴人に賦与した利益を奪うという性質のものではなく単に前処分に訂正補充すべき部分があるとしてなされた単なる訂正処分たるに止るから後段において判断する更正権の濫用に渉るような事実がないかぎりこれを違法とすべき何等の理由もない。
よつて本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(菅野啓蔵 小林信次 中平健吉)